小児科に限らず、医師の仕事は患者さんを診察して「病気を診断」することから始まります。診断を誤れば、治療そのものを誤ることになり、病気の回復は遅れるまたは悪化することとなります。正確な診断をするために必要なのは「患者さんに関する情報」です。子供は自分で症状を話せませんし、成人のように血液検査などを簡単に行うこともむずかしいので、保護者からの問診の重要性がとても高くなります。
私のような小児科開業医が診療する患者さんは、熱・咳・鼻水のような「かぜ症状」のかたがほとんどですが、その中には「喘息発作」、「肺炎」、「花粉症」、稀には「髄膜炎」の患者さんなどもまぎれ込んでいます。冬の忙しい時期は有名な「3分診療(実際には4~5分)」で対応しなければ、来院されたお子様たちをその日のうちに診察できません。
短時間にできるだけ正確な診断をして、できるだけ早く子供を楽にしてあげるためには患者さん(お子様)に関する正確な情報提供と、保護者の方のご協力が必要です。このような実情をご理解いただいたうえで、上手に小児科医と付き合って欲しいという願いを込めて、この10箇条を書いてみました。私が望む「理想の保護者像」と思ってください。
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必ず診察を受ける
医師の仕事は「診断と治療」ですが、正しい診断をするためには「患者さんを診察する」ことが絶対に必要な条件となります。咳が出て「カゼ」だと思って受診したら実は「喘息」だったり、鼻水が続いていて熱が出てきたので受診したら「中耳炎」が見つかることなど、良くあることです。咳や熱が長びいているのでレントゲンを撮ってみたら「肺炎」だったこともあります。「カゼは万病の元」という言葉がありますが、カゼをひいたら色々な病気になるのではなく、カゼと他の病気との区別が難しいということだと思います。
普通の「カゼ」であっても、その症状や程度は患者さん一人一人で違いますし、また時間とともに変化します。その患者さんの、その時の症状に合わせて調合した薬が一番効果的なのは当然です。
他の医療機関を受診しているが治らないので病院を変えてみた、といって来院される方の話を聞いていると、診察を受けたのは最初のときだけで、その後は窓口で薬だけもらっていたという方も少なくありません。薬だけもらう人って多いのでしょうか?多少めんどうでも、診察を受けてその時の最善の治療(薬)を決めるのが、一番早く病気を治す方法だと思います。
その様な訳で、当院では「薬だけ下さい」というご要望は原則としてお断りしています。
お子様の病気の経過や日ごろの様子を知っている方が連れて行く。
通常はお母さんが子供の体調について一番詳しく、来院されるときも同行されること多いです。でも時々親戚の方などで「頼まれて連れて来ただけ」という方がいらっしゃいます。医者は神様ではありませんので、ただ患者さんを診察すれば病気が分かるという訳にはいきません。適切な「情報」なくして、正確な診断は出来ないのです。
一番心配なことは何か?いつから・どのような症状があるのか?元気はあるか?今日は何を食べたか?普段よりも少なかったか?飲み物は飲んでいるか?尿は変わらず出ているか?排便はあるか?昨日はどんな生活をしていたか?最近の生活で何か変化はないか?学校や幼稚園の行事の予定はあるか?他の病院にかからなかったか? などなど、お子様の状態について知りたいことはたくさんあります。
どうしても誰か他の人に付き添いを頼む時は最低限「いつから、どんな症状があるのか」を伝えておくかメモにして渡してください。薬を飲んだり座薬を使った時は、「何を、いつ」使ったかも是非お伝え下さい。 当院を時々受診される方であれば、待合室の問診表を常に1~2枚お持ち帰りになって、それに記入してお渡ししていただいても構いません。
他の病院の薬は?
受診された患者さんが他の病院でお薬を処方されて飲んでいるのには、二つのパターンがあります。
まず①: 喘息、けいれん、心臓病などの慢性疾患で長期治療をしている方が、カゼなどの急性疾患にかかって別の病院を受診された場合です。この場合で問題になるのは、長く飲んでいる薬とカゼなどの治療に使う薬との「飲み合わせ」です。すでに処方されている薬を中止するわけにはいきませんが、併用してはいけないものや、注意して使わなければならないものがあります。
次に②: カゼや湿疹などを別の病院で治療していたが、良くならないので病院を変えた場合です。このような場合、薬を変更する(または増量する)必要があります。前の病院で処方されていた薬と同じものを処方しても良くならないでしょう。いずれの場合も、それまでの薬が分からなければ、新しい処方を決める時に大変悩むことになりますし、場合によっては処方を断ることもあります。反対に、それまでの処方が分かれば、前医の診断や病気の経過まで推定できますので、「簡単」かつ「より適切」に、新しい治療を決めることができます。それによって患者さんの苦痛がより早く軽減できることになります。「おくすり手帳」や「薬剤情報(くすりの説明書)」は、患者さんだけでなく医者にとっても大切な情報なのです。別の病院にかかる時は、忘れずに持参してください。
一番つらい症状(心配事)をまず伝える(1つか2つくらい)
病気になると、いくつかの症状が出ます。風邪なら、くしゃみ・鼻みず・咳・発熱・腹痛・下痢などです。それらの中で一番つらい症状(1つか2つ程度)を「主訴(しゅそ)」と言います。「主訴」は、医師が病気の診断や治療を決める際に、患者さんの状態を把握するための基本情報です。主訴やその他の症状が何時ごろからどのように起こっているのかを知ることで病気をある程度推定し、診察や検査によって裏付けを行い、最終的に1つ(または2つ)の診断名を決定します。また薬を処方する時は、つらい症状をできるだけ早く軽減するように努力します。
当院では、受診者全員に問診表を記入していただいています。その中に「一番つらい症状は何ですか?」という質問がありますが、これは「主訴」を知るための質問なのです。
その他の質問
冬の小児科のように、体調の悪いお子様が多数来院して診察の順番を待っている時には、われわれもできるだけ手際よく診察を済ませようと必死になっています。
めったに医者にかからないからと言って、カゼ症状で受診したついでに「発育・発達の悩みや他の病院で長く治療している病気・薬の不安、予防注射の計画や相談、スポーツや学校などの相談」などをまとめて話し始める方がいます。お気持ちは理解できるのですが、待合室が混雑している時間帯にはご遠慮願いたいものです。
薬などのご要望
診察が終わって「お大事に!」とお別れを告げた後に、「薬はシロップではなく、粉にして欲しい」とか「熱さましや湿疹の薬も欲しい」と申し出る方がいらっしゃいます。そのようなご希望はもっと早め(できれば予診の時)にお知らせいただくと大変ありがたいです。
⑤と⑥は、混雑している時に診察を短時間で終わるためのエチケットだと考えてください。ヒマな時はいくら話し込んでいただいても構いません。
病名の確認を
患者さんの治療は、診断(名)を付けることから始まります。診断を間違えると、間違った治療をすることになりますので、病気は良くならないことになります。したがって「診断(名)」は、「処方された薬の名前」とともに最も重要な情報の一つと言うことになります。
皆様がただの風邪だと思って受診したら、「気管支喘息」や「溶連菌感染症」などと診断されることは良くあることでしょう。当院では、お渡ししているカルテの中に≪本日の診断≫として病名を記載していますのでご確認ください。聞きなれない病名やよく理解できない病名は質問をしたり家庭用の医学書などで確かめることをおすすめします。後日、医療機関を受診した時に「以前にこの病気にかかった」ことを告げると、より早く適切な診断や治療を開始できることがあります。
薬の確認を
医療ミスや処方ミスは許されるものではありませんが、人間がやることである以上いくら注意していても不幸なミスは起こってしまいます。医療機関がミスを起こさないように注意するのは当然のことですが、患者さんもミスを発見する注意や努力をするべきだと思います。
当院は平成25年9月より「院外処方」になりましたが、毎回お渡ししているカルテには私が処方した薬の名前や飲み方も書かれています。ほとんどの薬局では、カラー写真付きの薬剤情報が渡されることと思います。われわれのミスや間違いを探すつもりで、薬と写真、カルテを見比べてみませんか。
なお私が薬を変更するときは、診察室でかならず説明しています。無断で薬を変えることはありません。内容に少しでも疑問を感じたら、できるだけ早く連絡してください。帰宅後や夜間になると連絡が取れなくなりますので、薬を受け取ったその場で確認されることをおすすめします。
一度診察を受けて良くならないときは、もう一度受診する
一度診察を受けて良くならないときは、もう一度受診する
子供の病気の治療は、診察した時に得られた情報(これまでの経過と診察所見)に基づいて判断し、その時点で最良と考える薬を処方しますが、その後の経過が悪くなる場合もあります。それは病気の自然経過かもしれませんし、診断が不適切だったのかもしれません。単なる「カゼ」であっても、引き始めの1~2日目と治りかけの5日目では、症状は変わってくるのが当たり前です。
したがって、お薬を飲んでも病気が良くならない時は、もう一度同じ病院を受診することをお勧めします。患者さんを診察する回数が多いほど正確な診断が可能となり、より良い治療ができることになります。勝手に薬をやめたり、毎回違う病院を受診することは、病気の治療にとってはマイナスです。
医療機関の受付時間を守る
当院は夜間や休日の診療は行っていませんが、受け付け終了間際の診療依頼には可能な限り対応をしています。ただ、その様な時間帯に受診される方の中には、必ずしも「急病」ではない患者さんもいらっしゃいます。
「仕事が休めなかったので受付時間に間に合わない。」「日中は様子を見ていた。今も元気だが、暗くなってきたら何となく不安になってきた。」
というのが良くあるパターンです。
当院だけでなく、すべての医療機関のスタッフにも家庭があり、生活がありますので、超過勤務はうれしくありません。皆様にもさまざまな事情があることとは思いますが、突然の発熱などの急病をのぞき、受付け時間を守ることは患者としてのエチケットだと考えます。