①一番多いのはウィルス性の胃腸炎(お腹のカゼ)!!
②脱水が問題だが、数回なら一晩は大丈夫!
③嘔吐以外の症状により、注意点が多少異なります。
吐く病気にはいろいろなものがありますが、一番多いのはウィルス性の胃腸炎であり、一刻を争うような病気はかなり少ないと思います。しかしながら、吐く直前や吐いているときは、顔色が悪くなりとても苦しそうに見えますので、一見重い病気のように感じられます。吐いたあとに顔色が良くなれば一安心です。一晩で数回の嘔吐ならひどい脱水状態になることもないので、年長児ならば自宅で安静にしているだけでも大丈夫だと思いますが、年齢やほかの症状により注意すべき点がいくつかあります。
吐くのは・・・
生後3ヶ月未満の赤ちゃんは、ミルクの飲みすぎやゲップと同時に吐くことがありますが、そのような時は顔色も良く機嫌は悪くならないのが普通です。ウィルス性の胃腸炎にかかることはかなり少ないと思いますが、兄弟などから感染して胃腸炎になって嘔吐を繰り返した場合は簡単に脱水状態になってしまいます。また重い感染症(髄膜炎など)の初期症状が嘔吐だけのこともあるため、何回も繰り返して嘔吐があり、顔色が悪ければ夜中でも小児科医の診察を受けたほうが良いと思います。
同時に38度以上の熱が出た場合は発熱に対する注意も必要です。やはり夜中でも小児科医の診察をお勧めします。
ウィルス性胃腸炎が大多数を占めます。脱水状態になるかどうかが問題ですが、単に数回吐くだけなら一晩でひどい脱水状態にはなりません。水分を欲しがるなら、吐いた後20~30分ほど過ぎてからイオン飲料やスポーツドリンクなどを飲ませてみてください。眠たそうなら無理に飲ませないで、ゆっくり休ませてください。同時に下痢がある場合は脱水になりやすいので、翌朝一番でかかりつけの病院を受診してください。
ウィルス性胃腸炎以外の病気でも吐くことがありますが、緊急性のある病気はきわめて少ないと思います。ほかの症状との組み合わせで検討する必要があります。
食中毒を含む細菌性胃腸炎でも同様の症状がみられます。ただし、この3つの症状が同時に出てくるとは限りません。半日から2日くらいで症状が出そろうのが普通の経過です。吐くのではなく、熱から始まることも良くあります。
症状が軽い場合は、何もしなくても数日で治ってしまうことも多く、治療や点滴はその患者さんの症状の重さによって変わります。点滴をするかどうかの判断基準は医師やその医療機関の設備や人員により異なりますが、私の基準はおおむね以下の通りです。
頭を強く打つと『脳震盪(のうしんとう)』をおこして何回か吐くことがあります。一番の問題は、頭の中の『出血』がないかどうかですが、残念ながら診察しただけで『脳震盪』と『出血』を正確に区別することはできません。最終的に確定するには、頭のCT検査(レントゲンで頭の断面図を撮影する)が必要ですが、この検査は夜間や休日となるとどこでもできるわけではありません。昼間なら多くの病院で検査ができますが・・・。
ベッドから落ちたり、ひっくり返ったり、柱に頭をぶつけたくらいで頭の中に出血することはほとんどないのが現実ですので、その後1~2回吐いてもその後すぐに顔色が良くなれば一晩くらい様子を観察するだけで大丈夫だと思います。頭を打った後24時間以内に、次の症状がひとつでも見られた時は頭の中の出血の疑いが強いですから、夜間でも緊急に検査が必要です。救急車を呼ぶか、または脳外科医のいる病院に電話してください。
10分~30分くらいの間隔で、かなり激しい腹痛を繰り返すのは『腸重積症』という病気の特徴です。痛みがあるときは苦しげな顔をして、冷や汗がでたりエビのように丸くなって痛みをこらえますが、痛みがおさまると元気に遊びます。この病気が進行すると腸閉塞をおこして吐くようになりますが、この状態は手術も必要となるような、一刻を争う状態です。小児外科の医師のいる病院に電話して、できるだけ早く診察を受けてください。
嘔吐・発熱・頭痛、この3つの症状は『髄膜炎の3兆候』と呼ばれています。脳に細菌やウィルスが浸入して炎症を起こす病気です。ウィルス性の髄膜炎はほとんど自然に治ってしまいますが、細菌性髄膜炎は命にかかわります。嘔吐と熱があり、強い頭痛があるときはこの病気を考えて小児科医の診察を受けることをおすすめします。ただし、風邪やインフルエンザ、ウィルス性胃腸炎などで熱が出ても、頭が痛くなることも良くあることですので、あくまで髄膜炎を疑う症状と考えてください。
熱があるこどもに『頭が痛くないか?』と質問すれば、『痛い!』と返事するかもしれません。あくまで、自分で訴えていることが前提です。念のため…。
『吐く』ということは、胃の内容物が口から出てくることですが、胃腸の病気がなくても、小さいこどもは吐くことがあります。食べ過ぎた時、長く泣いて空気を大量に飲み込んだ時、そして咳がひどくてお腹に力を入れた時です。風邪を引いたり、喘息発作を起こしたときなど、強く咳き込んだ拍子に吐いてしまうことは良く経験します。
もちろん胃腸が悪いわけではありませんから、吐いた直後でも普通に飲んだり食べたりできます。このような時は、吐いたものが咽喉に詰まらないように気をつければほとんど心配ありません。ただし咳の原因が何かということは大きな問題ですので、翌日かかりつけの小児科医を受診してください。